同級生を殺害した容疑で逮捕された女子中学生。殺害を認めるも、動機については黙秘を続ける。はたして、その真相は。「社会派青春ミステリー」と紹介されていますが、確かに、すべての要素が含まれています。
神奈川県川崎市で、14歳の女子中学生・冬野ネガが、同級生の春日井のぞみを殺害した容疑で逮捕された。少女は犯行を認めたが、その動機は一切語らない。何故、のぞみは殺されたのか? 二人の刑事が捜査を開始すると、意外な事実が浮かび上がって――。現代社会が抱える闇を描いた、社会派青春ミステリー。
文学YouTuberベルの動画で紹介されて、気になっていた一冊。本屋大賞2019発掘本で話題になったということで、書店に平積みされていたので、その場で購入しました。
冒頭で容疑者が捕まるが動機が不明というと、同時期に読んだ『ファーストラヴ』と被っています。ただ、本作の方が、真相を追うミステリー要素が強いように感じました。
容疑者である14歳の冬野ネガ。殺害を認めるも、動機については黙秘を続けます。
「殺したことは認めるけど、動機は言わない。こういうの、『半落ち』って言うんでしょ。テレビで観たよ」
「わかんないよ。あんたたちにはわかんない。なにがわかんないのかも、わかんない」
それに対するのは、捜査一課の真壁巧と、生活安全課の仲田蛍。生活安全課にも関わらず捜査を担当する仲田は、少年犯罪をいくつも解決している一方で、変わり者として扱われています。
冬野と同じく母子家庭で育ちながら、努力を重ねて出世してきた真壁は、冬野に同情するも、「結局は、本人次第だ」と考えます。
「貧困が動機に関係している可能性はあるが、殊更に同情する必要はない。金がないのにスマホを持っていたんだ。必要なものの優先順位を間違えている。それに這い上がろうと努力しなかったことに関しては、彼女にも責任がないわけじゃない」
本作の「社会派」の部分は「貧困」を扱っているところなのです。その中で、「自己責任」というワードが出てきます。貧困と自己責任ということで、『神様を待っている』を思いだしました。
生活保護の役所での「水際作戦」や、お笑い芸人のお母さんがきっかけとなった生活保護バッシングなどが取り上げられています。参考図書を見ると、『ひとり親家庭』や『シングルマザーの貧困』など、僕も読んだことのある本が並んでいます。
シングルファーザーも登場します。
「ちょっと前は『男は仕事があるから、配偶者が死んでも経済的な問題はない』と言われていましたが、このご時世ですからね。家事や育児の時間をつくるために転職したら収入が大幅に減った、というシングルファーザーは珍しくないみたいです。住宅ローンを組んでいると、自己破産に追い込まれる人もいるそうですよ。でも母子家庭の貧困に較べると、まだまだ注目されていません。児童扶養手当は2010年、遺族基礎年金は2014年から、やっと父子家庭ももらえるようになりました」
ただ、ひとり親家庭や貧困については、くどくどと説明する感じではなくて、物語の中にすっと入っているので、違和感はなく読み進められます。僕が、ひとり親なので、過剰反応しているだけで。
青春要素としては、問題児として認識されている冬野と、対照的に優等生でクラスの中心人物の春日井のぞみ。被告人である冬野と殺害された春日井の関係とは。そして、中学校の生徒たち。貧困を軸に絡み合い、最後には悲しい結末が。
冬野が送検されるまでに、動機を明らかにしたい真壁。時間との勝負になります。そんな中で、仲田は冬野や春日井の気持ちを「想像」しようとします。それを、くだらないと考える真壁。捜査を進めるふたりの関係性にも注目です。
物語は、現在の刑事パートと、過去の冬野パートが交互に進行します。その進行具合がちょうど良く。謎は深まり、そして、終盤の諸々が重なった切ない展開。ミステリー部分も二転三転して、最後まで真相がわかりません。
本当に悪いのは誰なのか。社会派要素が効いています。と言っても、貧困がテーマではありますが、貧困問題自体に興味がなくても読める物語となっています。誰にでもおすすめできる一冊です。ただし、ずしっと重たい結末ですが。
表紙の写真は、写真家の青山裕企。スクールガールを「記号」として撮る写真家です。本作の表紙としてすごく合ってますよね。合いすぎて、最初は気がつきませんでした。ただ、考えてみると、「記号」というのはポイントだという気がします。貧困について考えると、どこにでもあるわけで、本作ではたまたま冬野ネガと春日井のぞみに焦点が当たったにすぎません。貧困問題が今そこにあるというメッセージが、青山裕企の起用によって伝わってくるような気がしました。
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