『本の読み方』平野啓一郎

本の読み方

平野啓一郎による「本の読み方」の解説。特徴は「スロー・リーディング」です。この本を読むだけで、次からの読書体験が違ってくると思いますよ。読書に対する意識が変わります。読むときのテクニックについても解説されています。

本はどう読んだらいいのか? 速読は本当に効果があるのか?
闇雲に活字を追うだけの貧しい読書から、深く感じる豊かな読書へ。
『マチネの終わりに』の平野啓一郎が、自身も実践している、
「速読コンプレックス」から解放される、差がつく読書術を大公開。

「スロー・リーディング」でも、必要な本は十分に読めるし、
少なくとも、生きていく上で使える本が増えることは確かであり、
それは思考や会話に着実に反映される。
決して、私に特別な能力ではない。
ただ、本書で書いたようなことに気をつけながら、
ゆっくり読めば、誰でも自ずとそうなるのである。(中略)
読書は何よりも楽しみであり、慌てることはないのである。
(「文庫版に寄せて」より)

情報が氾濫している現代社会だからこそ、著者は「スロー・リーディング」を提唱する。
「量」より「質」を重視した読書経験は、5年後、10年後にも役立つ教養を授け、
人生を豊かにしてくれるだろう。
夏目漱石、森鷗外、フランツ・カフカ、川端康成、三島由紀夫など
不朽の名作から自作の『葬送』まで――。
深く理解することが可能になる、知的で実践的な読み方を紹介する。
新書版を加筆・修正し再編集。

・「速読コンプレックス」からの解放
・「量」の読書から「質」の読書へ
・なぜ小説は速読できないのか
・5年後、10年後のための読書
・小説には様々なノイズがある
・書き手の視点で読んでみる

「スロー・リーディング」を提唱する著者は、アンチ速読の立場に立っています。量よりも質という立場ですね。本書を読むと、速読をする必要がない、もっと言うと、速読は害であるという意識になります。

僕は、速読が効果的な本も存在すると考えています。一部の自己啓発書やビジネス書は、結論ありきで読み間違いが起こりませんし、字数を稼ぐために無駄にあれこれ付け足されたりしています。そういった本の場合は、速読でも効果はあると思います。本書では、そういう本は対象としてないと考えると良いと思います。

本書の対象読者は、こう書かれています。読書が苦手な人から文学ファンまで、幅広く対応できる本です。

読書家にも受け容れられた手応えはあるが、そもそもは読書が苦手、あるいは興味はあるが、どう読んでいいかわからない、という人向けに書いた本である。

文学ファンには、やはり、作品読解のページ(実践編)を特に楽しんでもらいたい。

本を読むにはそれなりの技術が必要です。それがあると、読書は何倍も楽しくなります。そのあたりはアートと一緒かなという気がします。アートも鑑賞方法がわかっているほうが楽しめますよね。

一冊の本を、価値あるものにするかどうかは、読み方次第である。

旅行は、行ったという事実に意味があるのではない(よくそれを自慢する人もいるが)。行って、どれくらいその土地の魅力を堪能できたかに意味がある。

アラフォー同世代だとみんなそうだと思うのですが、1冊の本を繰り返し読み、1枚のCDを繰り返し聴くということをやってきたのではないでしょうか。その頃に読んだ本や聴いた音楽が、自分に大きな影響を与えたように感じませんか?量を消費することが豊かさではないのですね。

読書の本当の意味を、著者はこう書いています。

ある意味で、読書は、読み終わったときにこそ本当に始まる。ページを捲りながら、自分なりに考え、感じたことを、これからの生活にどう生かしていくか。──読書という体験は、そこで初めて意味を持ってくるのである。

では、本を読む時に何に気をつければいいのでしょうか。いくつかのテクニックが説明されています。

  • 助詞や助動詞の使い方に注意する
  • 面倒臭がらずに、辞書を引く習慣を身につける
  • 常に「なぜ?」という疑問を持ちながら読む

そして、「作者の意図」を考えつつも「誤読力」を発揮します。

「誤読」にも、単に言葉の意味を勘違いしているだとか、論理を把握できていないといった「貧しい誤読」と、スロー・リーディングを通じて、熟考した末、「作者の意図」以上に興味深い内容を探り当てる「豊かな誤読」との二種類がある。

こうなると、速読では不可能な領域でしょう。僕は、速読は「作者の意図」だけを読み取る技術だと考えています。しかも、正確に読み取れないリスクがある。

そうではなくて、1冊をより深く読むということが必要です。

そう考えるとき、私たちは、本を「先へ」と早足で読み進めていくというのではなく、「奥へ」とより深く読み込んでいくというふうに発想を転換できるのではないだろうか?

一冊の本をじっくりと時間をかけて読めば、実は、 一〇冊分、二〇冊分の本を読んだのと同じ手応え が得られる。

海外生活をしていて日本語の文章に触れる機会が少なかったのにも関わらず、帰国して日本語の文章が上達していたという例を目にしたことがあります。その人たちは、海外にいる間に手元にある良質な日本語文章を繰り返し読んでいたのだそうです。

そうなると、1冊の本とのつきあいが変わってきます。

一冊の本とのつきあいは、決して一期一会ではなく、もっとずっと長いものである。

自分にとって本当に大切な本を、五年後、一〇年後、と折に触れて読み返してみる。その印象の変化を通じて、私たちは 自分自身の成長のあとを実感するだろう。外観の変化は、写真や動画が保存してくれる。しかし、内面の変化を実感させてくれるのは本である。

人間は生まれてから死ぬまで、ずっと変わり続ける。ものの見方も変われば、考え方も変わる。それは、悪いことではない。同じ本を数年後に読み、そこで自分の感想が変わっていたならば、それだけ自分が変わったということであり、その数年間に意味があったということだ。感想は、一回限りのものでなくていい。むしろそれは、生きている限り、何度も更新されるものであるべきだ。

1冊の本が、自分の成長のバロメーターとなるんですね。平野啓一郎の「マチネの終わりに」は、僕が著者や主人公たちと同世代だということで感じるものがありました。もしも10年前に読んでいたら、違った感想を持っていたことでしょう。

最後に、実践編について。いくつかの本から抜き出された文書を実際に読んだ上で、「スロー・リーディング」ではどう読むか解説されています。これは、かなり難易度が高く感じました。書いてあることは難しくないのです。ただ、深すぎて、自力でそこまで読めるようになる自信が持てないのです。

しかし、1冊を繰り返し読むのであれば、次第に読めるようになるのかもしれませんね。本書を読んで意識は変わっているわけですから。

僕は、人生を変えた本だとか、そこまでいかなくとも、強く印象に残った本というのが思い出せません。本を深く読むということをしてこなかったからかもしれません。この「本の読み方」であれば、そういった本とも出会えるような気がしました。もしかしたら、すでに出会った本と再会して、新たなつきあいがはじまったりもするのかも。

読むだけで意識が変わるので、いろんな本を読む前に、本書を読むと良いでしょう。もっと早く読みたかった1冊です。

コメント

  1. […] […]

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