写真館経営についての本ではありますが、他業種であっても役に立つ内容となっています。特にお客さんと直接やり取りをして「感動を売る」というスタイルの業種の経営者であれば、読んでおくべきだと思います。
非日常の演出と「おもてなし」の接客で年間利益1億円!
技術なし、コネなし、資金なしから始まった小さな写真館が
多くのファンを生み出す人気店になれた理由とは?大手子ども写真館の台頭、スマホの普及で、年々その姿を消す個人経営の写真館。
そんななか、独自の経営手法で着々とファンを増やし、成長を続ける人気スタジオが兵庫県にあります。
専門学校を出たわけでも、カメラマンのもとで修業をしたわけでもない、
素人カメラマンからスタートした著者が人気スタジオの経営者となれた理由は、
「非日常」が感じられる店作りと「おもてなし」の接客にありました。
時代やニーズの変化を汲み取り、常にトライ&エラーを続けてきた著者が贈る、
大手に負けない「強いお店」をつくるための経営戦略。
成功している写真館というと、スタジオアリスが思い浮かびます。僕の拙い分析では、撮影セットを固定することで高度な撮影スキルが不要となり、豊富な衣装を強みとし、データ販売で収益を上げることで広まったように見えます。システム化することでスキルを不要としている点は、他業種で言えば、ブックオフに通じると思います。
著者のスタジオでは、それとは真逆とも言える戦略によって成功を収めています。タイトルにもなっている「感動を売る」というところですね。スタジオアリスはたびたび利用していますす。出来上がりの写真にそれなりの満足はしますが、撮影体験自体は感動とは程遠いものです。一方で、感動を売る写真館は、どう作られているのでしょうか。
東京ディズニーランドやユニバーサル・スタジオ・ジャパンに代表される人気のテーマパークでは、徹底した世界観を演出して来場者を楽しませています。
外観から始まり、エントランスや受付、待合、メイクルーム、スタジオ、そして写真を選ぶセレクトルームといったすべての空間を「非日常的」にしていれば、移動も楽しくなります。ハイセンスなインテリアや装飾だけでなく、BGMや香りも含めて、お店のイメージを統一し、世界観を演出しているのです。
非日常や世界観を邪魔するものを一切排除しています。撮影体験自体が、非日常な感動の体験となるのです。そのためには、接客が非常に重要で、そのための人材育成についても触れられています。
さて、感動というのは定性的なもので、測定不能であるように思います。しかし、感動を追い求めるためには、それを定量的なデータとして扱う必要がります。そこで、著者は、「『感動』の大きさは数字で把握する」としています。
数字は経営を理解する基本であり、数字を見れば、自社の強みや問題点、改善すべきポイントなどがすべて分かります。逆に言えば、数字を見ないで事業を経営するのは目をつぶって車を運転するようなものです。
感動の数値かというと、ドライに見えるかもしれません。しかし、それが「感動」を生み出している。ドライに徹するからこそ「感動」の資源が生まれるのかもしれません。客単価の話も、そう。
ちなみに、私の会社では一昔前まで、七五三撮影の客単価は3万円程度でした。その後、経営戦略を見直して10万円にまで引き上げたところ、客数は減りましたが客単価が3倍以上になったので、売上は上がりました。
客数が減って客単価が上がると、利益率が向上します。そして、お客さんの質が上がりますから、スタッフの負担が大幅に減ることになります。そうすると、より、本質的な接客にリソースを割くことができるわけですね。ちなみに、単価と満足度を上げるために、デジタルデータや台紙ではなくアルバムを売るようにしているそうです。
著者は僕よりも年配ではありますが、トライすること、変化することを恐れません。いちはやくデジタルカメラを導入したのもそうですし、日本の写真館では当たり前のバック紙の使用をやめたのもそうです。スタジオでのスマホ撮影を解禁するというのも、従来の写真館では考えられませんでした。
トレンドを追い、それに応じて短期間でスタジオを改装したりします。ターゲットを「子ども」ではなく「母親」に設定し、女性ファッション誌などでトレンドを取り入れているようです。これを実現するためには、資本が必要なのですが、事業計画に則った経営をすることでクリアしているのだと思います。
ここでは紹介しきれませんが、他にも細かい知見がたくさん載っていて、しっかりと読み込む価値があります。著者はもともと印刷会社の営業マンだったということで、写真館経営においてはプレイヤー(カメラマン)ではないんですね。ですから、プレイヤーとして活動していきたい人にはマッチしないかもしれません。けれども、プレイヤーであっても、感動を売るというのは必要なわけで、そのためにどうすべきかという指針は必要だと思います。
著者は、写真館経営のコンサルティングもやっているということで、最後に2つの事例が紹介されています。また、異業種からも経営についての相談が寄せられるということで、本書も、異業種であっても十分に役に立つ内容となっています。幅広く読まれるべき一冊だと言えるでしょう。
コメント