『いまこそ知りたいAIビジネス』石角友愛

いまこそ知りたいAIビジネス

シリコンバレーで日本企業向けにAI支援を提供するパロアルトインサイト。そのCEOである石角友愛によるAIビジネスの入門書。僕はソフトウェア開発を生業としていますが、AIには興味が持てずに過ごして来ました。最近になって、なんとなく手を出してみようかと思い、本書を手に取りました。

著者は、CEO兼AIビジネスデザイナーということで、まずは「AIビジネスデザイン」というキーワードがおもしろそうです。

ひと言でいうと、AIビジネスとは、「AI技術を使って企業の課題を解決する方法を提案し、実装すること」。そして、AIビジネスデザインとは、「経営者や事業担当者とデータサイエンティストの間に立ち、AIビジネスを創造する仕事」である。

インターネットはもはやインフラになったわけですが、AIもまもなくインフラとなります。ところが、日本企業はAIに対する認識が不足していると言います。そのあたりのエピソードが第1章で語られています。これについては、ここでは触れません。

ただ、この事例がおもしろかったのでピックアップします。極端に上手くいった事例だと思うのですが。

そこで、アマゾンにおける商品の最適価格を予想するAIモデルを弊社が開発した。このAIモデルを導入したとたん、伸び悩んでいた売り上げが、3ヶ月で2倍アップ、同時に利益率も2倍以上伸びて、月商1億円を超えるまでになった。

こういうのが「AIビジネス」なのか、とイメージしやすいですね。AI自体をサービスとするのではなく、AIをツールとして使って売り上げを伸ばす。さらにそれを支援するパロアルトインサイトという構図です。

次に、第2章はAIビジネスの最前線の紹介です。AIとスタイリストのおすすめの洋服が送られてきて、気に入らない服を返却する、基本料金は月額となるサブスクビジネスを展開するスティッチフィックスでのAI利用について解説しています。

https://snowball-capital-works.com/2019/01/29/stich-fix/

そのスティッチフィックスでは、すべての意思決定の場に、必ずデータサイエンティストが参加するようにしているそうです。

現在、シリコンバレーのAIビジネス現場では、「すべての経営会議にデータサイエンティストが参加すべきである」と言われている。これは、これからのAIビジネスの基本的な考え方になるだろう。

どうでしょうか。日本だとデータサイエンティストは圧倒的に不足しているのではないでしょうか。

このデータサイエンティストは、AIに取って代わられることはありません。同じく、前述のAIビジネスデザイナーもそうです。その他、人間とAIは協働するケースを紹介しています。「AIに職を奪われる」という考え方はナンセンスなんですね。

そして、AIビジネスがどこで収益化すべきか説明されています。本質的にはビジネスモデルの変革が必要であり、これまでの収益構造を見直す必要があります。収益化だけでなく、いかにデータを集めるかということがポイントになります。ここでは、「Go to Market戦略」というキーワードが挙げられています。

第3章は、AIを導入したい企業がすべきことです。ただ闇雲にデータを集めても、そのデータを活用はできません。どんなデータを集めるべきか、その段階でデータサイエンティストが関わる必要があります。これは、よく言われていることですね。

ここで、Kaggleについて言及されています。データサイエンティストのプラットフォームで、企業から提要される機械学習コンペが開催されています。テック系ポッドキャストのRebuild.fmでもちらっと出てきたような。

Kaggle: Your Machine Learning and Data Science Community
Kaggle is the world’s largest data science community with powerful tools and resources to help you achieve your data science goals.

これはつまり、データをオープンにすることで、質の高いモデルを得て、ビジネスに活かすということです。この、データをオープンにするということに、日本企業が積極的になれるのかというのは、今後を左右しそうな気がします。

詳細は端折りますが、AI導入のプロセスが細かく解説されています。ここはすごくおもしろいので、ぜひ本書を読んでみてください。見積、解析、導入、などなど。

第4章でAIビジネスの課題について触れて、ここまでがビジネス向けの内容となります。第5章と第6章はは、人にフォーカスした内容になるかと思います。

AIビジネスに必要な人材としては、何度も登場しているデータサイエンティストです。世界中で引っ張りだこの職業だと書かれていますね。僕自身がデータサイエンティストになる可能性は低いと思いますが、経営者として、ソフトウェアエンジニアとして、いずれは一緒に仕事をすることになると思います。基礎の基礎くらいの知識は付けておきたいところです。

AIビジネス人材が不足していて、世界的には報酬が高騰しているようです。そんな中で、日本企業はどうなるのでしょう。著者は日本のAIビジネスの活路を示していますが、個人的にその見解はかなり楽観的と言わざるを得ないと感じました。近い将来、かなり大きな構造変化がありそうな気がしています。

最後は、個人向けのビジネス書風の内容となっています。AI時代における私たちの働き方。

アメリカにあるガートナーというリサーチ会社によると、2020年までにAIが奪う量の仕事よりも、AIが作り出す仕事のほうが多くなると予想されている。

これも楽観的であるとも言えますが、新しい仕事が生まれるというのは間違いないように思います。すでに僕は、学生時代には創造もできなかったようなスタイルで仕事をしていますし。ですから、極度に悲観視する必要はないと思っています。

少なくとも、第6章で示されているように、AIのトレーナーや管理者というのが必要なのは間違いありません。まずは、擬人化されたAIのイメージを捨てて、ツールとして利用する意識でいることが重要だと言えるでしょう。

「AIバイリンガル」というキーワードが出てきます。ここでもやはり、「リベラルアーツ」の重要性について触れられています。今後は、異なる領域を掛け合わせる力が必要で、リベラルアーツがそのベースとなるためです。山口周「ニュータイプの時代」でもリベラルアーツが重要であると書かれています。

AIバイリンガルについては学生の話ですが、社会人になっても学ぶことが必要です。ここでは、ネットで大学の講義が受講できるMOOCが紹介されています。日本でも東京大学が講義を公開していますね。

大規模公開オンライン講座(MOOC) | 東京大学

その他、現在の状況が紹介されていますので、AI時代の学びについては、本書第6章を参照してください。

AI時代というのはもう到来していると思っています。その恩恵は受けているのですが、自分が仕掛ける側になるという意識は多くの人がまだ持っていないのではないでしょうか。しかし、これからは積極的にAIに関わっていくという姿勢が必要になってきます。本書にもあるように”now or never”の状況なのです。

と言いつつ、僕もようやく興味を持った段階。ぼちぼち関わっていきます。

AIがらみの次の本として「機械学習を理解するための数学のきほん」を読んでいます。まずは数学という、また極端な方に走りました。並行して、AIの活用事例も調べていけたらと考えています。

コメント

  1. […] […]

タイトルとURLをコピーしました