『読みたいことを、書けばいい。』田中泰延

読みたいことを、書けばいい。

「書く」ことについて、「なにを書くのか」「だれに書くのか」「どう書くのか」「なぜ書くのか」という切り口で語られている本です。ライターさんに役立ちそうなトピックもあるのですが、ライターでなくても「noteになにか書いてみようかな」と、ふわっと感じている人にちょうど良い本だと感じました。

本書のエッセンスをまとめると5分の1くらいにまとめられそうです。しかし、あえて、面白おかしい風の文章を加えて冗長に書かれています。面白いと感じるかどうかは読む人しだいなのですが、さすがにうまいなと感じました。この本自体が、読みたいことを書いたら、こうなったという事例になっているのではないでしょうか。

さて、「noteになにか書いてみようかな」という人にちょうど良いと書いたのは、本書が「随筆」の書き方に寄っているからです。違いは後述しますが、ここでは「随筆」と「エッセイ」区別することにします。

じつは、書きたい人がいて、読む人がいる文章のボリュームゾーンは「随筆」なのである。

わたしが随筆を定義すると、こうなる。
「事象と心象が交わるところに生まれる文章」

ここだけ引用すると、一見難しそうな定義なのですが、この後にちゃんと説明が書かれています。この定義をしっかり持とう、と著者は言います。

読み進めると「何を書いたかよりも誰が書いたか」というトピックが出てきます。これは、芸能人がアメブロに書いた文章を思い出すとイメージしやすいでしょう。芸能人がちょろっと書いた文章は、多くの人に読まれ、反響があります。一般人だとそうはいきません。だからこそ、「まず、書いた文章を自分がおもしろいと思えれば幸せだと気がつくべきだ」と述べられているのです。

著者は「つまらない人間」とは、自分の内面を語る人だと言います。著者による随筆の定義を詳しく見てみると、心象の前に事象が来ます。事象をベースとして心象が語られるべきなのです。心象だけを語ってしまうと、「つまらない人間」ということになってしまいます。

ここで、先に「随筆」と「エッセイ」を区別すると書いたのを思い出してみましょう。これがその違いだと考えています。つまり、「事象と心象が交わる」随筆に対して、「心象のみを語る」エッセイという構図です。

noteにはエッセイが溢れています。そうなると、差別化を図るために、エッセイではなくて随筆を書くというのは有効であるように思います。「誰が書いたか」というのが重要なので、好きな書き手が書いたエッセイは楽しんで読むでしょう。一方で、まったく知らない人の自分語りを誰が読むのでしょうか。(ここでは、noteのSNS的側面は無視しています)

さて、話は変わって、誰に向けて書くのかについて考えてみます。ここでは大胆にも「ターゲットなど想定しなくていい」と書かれています。

読み手など想定して書かなくていい。その文章を最初に読むのは、間違いなく自分だ。自分で読んでおもしろくなければ、書くこと自体が無駄になる。

これは、「書いた文章を自分で読んでおもしろければ幸せだ」という以上に、現代においては理にかなっていると思います。ネットは細分化しています。僕が見ているネットと、あなたが見ているネットは異なります。そうなると、万人に向けて書くことは、そもそも不可能でしょう。一方で、自分がおもしろいと思う文章であれば、自分と同じクラスタにいる少なくとも数百人は、おもしろいと感じてくれるはずです。

それから、もうひとつポイントだと感じたのは、「物書きは『調べる』が9割9分5厘6毛」というところ。

書くという行為において最も重要なのはファクトである。ライターの仕事はまず「調べる」ことから始める。そして調べた9割を棄て、残った1割を書いた中の1割にやっと「筆者はこう思う」と書く。

さらに、調べるにしても、「一次資料に当たらなければ話にならない」と言います。

これは、多くのwebライターさんに意識して欲しいところです。webメディアが増えるにつれて、クオリティの低い記事が量産されている印象があります。ここで言うクオリティの低い記事は2種類。「ググったらかんたんに出てくる情報をまとめた記事」と「ろくに調べもせずに想像だけで書かれた記事」です。プロのライターであれば、まずは、調べるということを徹底して欲しい。調べる方法は、本書にも書かれています。

最後は、「なぜ書くのか」についてです。エモい感じの内容なので、ここで中途半端に触れるよりも、本書を読んでみると良いと思います。

本文は面白おかしい風に書かれている一方で、コラムがまともに書かれている、という特徴があります。「広告の書き方」「履歴書の書き方」「書くために読むといい本」が取り上げられています。コラムについては、ライター業をやっていきたい人たちにも役に立つでしょう。

noteは書き始めるのにとてもハードルの低いサービスだと感じています。何か書いてみようと考えている人も多いでしょう。そんな人たちが何かを書く取っ掛かりとして、読んで見る価値のある本だと思います。

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